『広告配信での機械学習』導入事例|Googleプロダクトを活用したTSI×D.Table取り組み紹介 連載第1弾

 2022.03.16  デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社

※D.Table株式会社は2023年8月31日DACに吸収合併いたしました。

新型コロナウイルスなど昨今の時勢は急激なデジタルシフトに向かい、消費者がECサイトを通して買い物をすることが当たり前な世の中となりました。各事業会社もそのニーズに合わせ自社ECでの顧客体験向上の必要性は実感しつつ、マーケティング施策においてどのようなアクションを行っていけばよいか明確な答えがまだ持てていない方もいるのではないでしょうか。

本連載では、多数の人気アパレルブランドを展開する株式会社TSIホールディングス(以下、「TSI」)のGoogleソリューションを活用した取り組みについて、実際にTSIのご担当者様の生の声を踏まえ、施策の段階に沿って全3回に渡りご紹介します。アパレル業界に留まらず、様々な業種の皆様にとって有益なエッセンスがたくさん詰まった事例となっております。

第一弾では、TSIのデジタル広告やデータ活用戦略を統括する 竹山健司さんと、取り組みを一緒に進めている弊社DAC及びグループ会社D.Table株式会社(以下、D.Table)の担当である服部・小林の3名による、機械学習のインハウス支援に関するインタビュー内容をお届けします。

※本文中の敬称略

会社紹介

- TSIとはどういった企業でしょうか

竹山:株式会社TSIホールディングスは『nano・universe』、『NATURAL BEAUTY BASIC』、『JILLSTUART』など現在50以上のアパレルブランドを保有しております。その中で2021年3月に株式会社ナノ・ユニバース、株式会社アングローバル、株式会社 TSI EC ストラテジーなどの9社が統合し、株式会社TSIができました。それにより、これまで各会社に散らばっていたデジタル人材180名が一箇所に集まり、デジタル領域の人材の力が結集しました。これまでブランド毎に施策を行ってきた状況から、TSI全体でデジタルマーケティングの融合を進めるフェーズへと移り、店舗からECへのチャネル展開やユニファイドコマース戦略などを進め、ECと店舗のシームレスな連携を強化できるように動いています。TSIとはどういった企業か


- D.Tableとはどういった企業でしょうか

服部:D.Tableは、Google AnalyticsやGoogle Tag ManagerなどのGoogle認定パートナーでもありGoogle Marketing Platform(以下、GMP)の豊富な実績を持つ「DAC」と、Google Cloudの導入開発で国内No.1プレミアパートナー「クラウドエース」の親会社である「吉積ホールディングス株式会社」との合弁会社です。そのため、IT担当とマーケティング担当、両サイドの課題を熟知しており、クライアント様のビジネス課題を踏まえて、CDPを含めたデータ基盤構築からBIによる可視化環境の構築、自社データの機械学習活用、そして、広告などマーケティングアクションまで一気通貫でサポートできる体制がございます。

D.Tableとはどういった企業か

 

TSIのマーケティング背景とインハウスに注力する理由

- ここからは背景や施策の内容などについて聞いていければと思います。まずは、TSIのマーケティングで竹山さんが入社した当時抱えていた課題があれば教えてください

竹山Google Cloudを導入した2018年頃から、自社データを活用した広告配信に注力したいと強く意識してきました。しかし、同時に課題に感じていたのは、「属人化」と「自社ナレッジの蓄積不足」でした。

会社統合前は主に私がデジタルマーケティングを担っていましたが、BigQueryからのデータ抽出や広告配信のターゲティング設定などは何とかできていたものの、それが正しく適切な対応なのかフィードバックをもらえる環境ではなかったため、不安やモヤモヤがありました。また、どうしても取り組みが属人化してしまう部分が多く、関わっている代理店様やベンダー様側に知見は残っても、自社にナレッジやノウハウが貯まらない状況でした。

- なぜ今回D.Tableとの取り組みを行うことにしたのか決め手を教えてください

竹山:いくつかのコンサルティング会社を比較検討しましたが、D.Tableさんは、実際に施策の準備・実行段階から伴走してくれるため、自社にノウハウ・知見が蓄積する形でプロジェクトを進められる点が魅力的でした。また、コロナ禍でありながら「すべてハンズオン形式で実施」という点もありがたかったですね。正直な話、他社から提案も受けていたのですが、その会社が施策の実行をすべて担う形が多く、インハウス化が進められないのが難点でした。

- 「インハウス」という言葉がありましたが、なぜTSIはインハウスを重要視するのでしょうか

竹山:インハウスを推進する理由は大きくは3点あります。
 ①分析・施策実施・効果検証がスムーズに回せる
 ②自社に知見が蓄積できる
 ③セキュリティ面のケア
特に3点目については、個人情報を渡すことに懸念があり、インハウスの方が安心と考えました。またインハウス化については、全社的に進める流れにもなっていました。

- TSIの場合、D.Tableが最初に提案をした2020年初夏時点で、既にデータ基盤は出来上がっている状態だった認識ですが、いつ頃からデータ基盤を構築し始めたのでしょうか

竹山:現状も100%出来上がってはいませんが、CDPであるBigQueryも含めてGoogleのプロダクトを活用開始したのは2018年11月頃からです。

- 競合企業と比較しても導入が早いですね!

竹山:当時は情報が少なかったので早かったどうかはわかりませんが(笑)。Googleソリューションが持ちあがった理由は、「広告効果の可視化」のためでした。当時、Google Analytics 360(以下、GA360)、アドエビス、AppsFlyerの導入をバラバラに検討していましたが、当時の経営陣から「これらのプロダクトを複合的に活用できないか?」という声が上がり、GA360のリセラーからBigQueryの存在を教えてもらいました。当時は、まだ会員ID単位での施策の効果計測はできていませんでしたし、BigQueryを利用するにはSQLを書かなければいけないということもよくわかっていませんでしたが、社内で導入提案を行ったところ、何とか通りました!結果的に、導入後は自分1人で活用を模索しながら進めなければいけない状態でわからないことだらけでしたが、いい意味でチャレンジングでした(笑)

- Google Cloud、強いてはBigQuery良さとはどのような点だと思いますか

竹山:Googleプロダクトはシームレスなデータ連携が可能ですし、BigQueryはデータの抽出速度や分析が早くスムーズです。Googleはプロダクトが豊富ですので、まずはGoogleから(始めよう)という考えに至りました。

 

施策の全体像

- 今回のD.Tableとのプロジェクト全体での課題はどのようなところにあったのでしょうか

竹山当時、私自身で自社のオウンド、広告、アプリデータなどをBigQueryに貯め、自社会員への広告施策は行っていました。また、自社データを貯めているだけでは今後会員数の伸びや顧客体験向上に頭打ちが来る懸念もあり、機械学習(Machine Learning。以下「ML」と表記)の活用にも注目していました。幸いにも、Google CloudではMLプロダクトが複数あり、独学で試していたりしましたが、ML活用の仕方が合っているのか間違っているのか判断がつかないことに不安がありました。そのため、自社データ活用含めて一緒に寄り添って施策を進めてもらえるパートナーを探しており、不明点があれば聞ける環境が欲しいと思っていました。その点で、D.Tableさんには相談役としての役割を求めていましたし、ハンズオンで進めながら、分からないところや自分なりに考えたことをぶつけ、それに対する回答やディスカッションから知見を深めていきたいと考えていました。何より、インハウス環境を叶えるために、私たち自身が手を動かすことが重要でした。

- ML活用施策の構想はどのように組み立てていったのでしょうか?

服部当時2020年の春先に初めて竹山さんとお話し、TSIさんの課題やデータの状況など様々なことをディスカッションしてきました。1st Iterationの取り組みでは、前段の竹山さんのお話にあったインハウスの課題もありましたので、「まずMLをマーケティング施策まで含めて最初から最後までやってみよう!」ということを目的に組み立てていきました。一方で、「ML活用はどこを目指すとよいのだろうか?」という疑問が浮かび、TSIさんの会社状況も考慮しつつ竹山さんと会話を重ねました。
結果、1st/2nd/3rdの順に徐々にレベルアップしながら施策を進められるとよいのではないかと思い、(以下の)3段構成でプロジェクトを進めていくことにしました。また、自社サイトの外と中をMLを用いて繋ぐことでよりパーソナライズされた顧客体験を構築できるのではないかと考えました。その際、BigQueryを中心に、施策の設計方法やSQLサンプルの提供など、D.TableからTSI様や竹山さんへサポートできる部分をタイムリーにご提供していく形を取ることにしました。

TSI様での機械学習の取り組み構想

  • 1st Iteration:改めてMLを体系的に理解し竹山さんご自身がスキルを習得しながら、自社データを広告配信のターゲティングに活用する施策を計画・実行。同時に、竹山さんによるMLモデルの活用方法を他ブランドにも横展開を行う。
  • 2nd Iteration:属人化を脱するため竹山さん以外の他メンバーへのデータ活用からML構築までのトレーニングを実施しデータ人材を育成と増強を行う。また、トレンドをおさえ1to1でのコミュニケーションが取れるようにECサイトと連動したダイナミックなクリエイティブ活用にも着手する。
  • 3rd Iteration:自社ECサイトの顧客満足や売上向上のため、BigQueryにある自社データを活用しGoogle CloudのRecommendations AIを用いて顧客体験を向上させるレコメンド枠の提供。MLを広告配信のみならずオウンドサイトのコンテンツ運用にも活用を進める。


- D.Tableとしてはどのような価値を提供していこうと考えていたのでしょうか

服部
提案当初は、まだD.Tableが立ち上げ間もなかったこともありどのようにTSIさんの課題を解決していくかを悩む部分が多くありました。しかし、丁度その頃サービス開発した「ML Booster」というML活用を促進するサービスがTSI様にマッチすると考え、TSI様のお話しをいただいたときは、率直に「是非TSI様とご一緒したい!」と思いました。

- D.Tableの「ML Booster」とはどのようなサービスでしょうか?

服部:D.Tableでは、自社データをスケールさせるためのML活用もサポートしています。そのサービス名称が「ML Booster」というサービスです。先ほど竹山さんも仰ったように、企業が1stPartyDataを集めたとしても、その原資だけではビジネスのスケールに限界が必ず来ると考えています。よって、その自社データからMLモデルを構築することで、今までの顧客の傾向から新規ユーザーの会員登録を促したり、既存顧客の満足度を更に上げLTV向上を図ったりすることも可能と考えています。

ML Booster全体ステップ
まずキックオフから始まり、MLを全般的に学べる勉強会、現状把握やヒアリングを経て、そこから実際にモデル構築を行うハンズオンを行います。そして、作成したMLモデルをマーケティングアクション(広告配信やサイト出し分けなど)に連携し、効果検証と振り返りを行うという流れになります。今回のTSI様の取り組みでは、Google Cloudの MLサービスの一つである BigQuery MLを採用しました。

D.Tableからは、私が全体ディレクションと広告やクリエイティブ周りを担当し、小林はMLモデルの構築やハンズオンを担いました。また、よりテクニカルな部分に関してはクラウドエースのエンジニアさんにもバックに入ってもらい、D.TableがDACとクラウドエースの体制連携ができる強みを活かしました。

 

1st Iterationにおける課題と解決に向けたアプローチ

- 1st Iterationの取り組みの目的や背景、抱えていた課題などを教えてください

竹山:3rdパーティークッキーの取得制限が入り、広告効果の効率が悪化しており、Google Cloudでの自社データを活用した広告配信が急務でした。そこで、ECサイトの購買データとGA360で収集しているサイトログのデータを活用し、MLモデルを構築することにしました。

服部:加えて、1stでは、竹山さんへMLモデルの基礎知識インプット、モデル設計から構築までのハンズオン、そして、作成したモデルを配信設計も踏まえて広告へ活用することの一連の流れを理解してもらうことを目的としました。

- 各ステップのことをお聞きしていければと思います。まず、Step1~4のインプットから事前準備(モデリング作成)のフェーズにおいて、率直な感想や印象に残っていることや、ご自身に役立ったと感じたことはありましたか

竹山:やはり(データベースの)基礎テーブルのためのSQL活用にあたってのクエリの書き方です。それまで説明変数や目的変数の活用を自分でも試していましたが、実際にどういうもの(変数)を入れていくとよいのかという部分をD.Tableさんにサポート頂きながら進められたことが良かったです。また、Google Cloudを含めたMLの基礎知識を体系的に学べたことも、頭を整理するという面でもとても参考になりました。

小林:モデル構築の部分では、竹山さんとも会話をしていき、結果LTVを目的変数にしてモデル構築を進めていきました。取り組みの中では、実際にD.TableからサンプルのSQLクエリを共有し、竹山さんのBigQueryのコンソール画面をGoogle Meetを用いてハンズオンで共有して頂きつつ、細かな点をアドバイスやディスカッションしながらモデルを作成していきました。また、Slackを用いて、疑問点があった際はいつでも質問を頂き回答できる環境もご提供しました。

竹山:自分が手を動かしている中で、いつでも質問できたこともありがたかったですね!

小林:まだまだD.Table内で実績がない中でしっかりサービス提供ができるかは探り探りでしたので、自身にとっても会社にとっても大きな挑戦でした。竹山様に如何にわかりやすく伝えるかということを心掛けながらハンズオンを実施していました。正直至らない点はあったかもしれませんが、この1st Iterationでの知見を2nd Iterationに大きく活かせたと感じています。

- D.Tableとしては、1stのモデル構築で意識していた部分はありましたか?

小林:先ほど服部からもあった通り、Google Cloudには機械学習のプロダクトがたくさんある中で、今回はBigQuery ML(以下、「BQML」)の機能を採用しました。BQMLは、MLをSQLだけで構築できるところが非常に便利で、非エンジニアでも構築できることが強みです。MLを理解し活用するためには、自分でモデルを作るという工程が必要と感じたため、今回のプログラムに最適と考えて選びました。Google Cloudの他プロダクトとにAuto MLなど”ボタンぽち”でMLモデルを作れるものもありますが、そうすると中身がわからなくなってしまいます。より深くスキルやノウハウを定着できるよう、BQMLを活用しハンズオン形式で学習できる形を取りました。

 

実施を振り返って

- ではマーケティングのアクション部分であるStep5 広告配信の概要を教えてください

服部まず広告配信が最後のアクションかと思ってしまいがちですが、実際はMLモデルの設計を考える段階から、広告配信ではどのような結果の仮説を想定するか、またその結果をどのように効果検証を行っていくのかまで、しっかりと取り組みの初期段階で効果検証まで計画を立てて進めていくことが重要と考えています。竹山さんとはモデル構築段階から様々な仮説を考えて進めていきました。1st Iterationの連携の流れは、作成したLTVのMLモデルをBQからGA360に送り、さらにGoogleAdsに連携する手法を取りました。クリエイティブにおいても、竹山さんやブランド担当者様とも会話をさせて頂き内容を深め、GoogleAdsの配信フォーマットに合わせて配信を考えていきました。


- MLモデル作成から広告配信を経てのStep6 効果検証フェーズで、実際に効果の実感はありましたか

竹山:まず作成したMLモデルのオーディエンスを活用した広告配信の効果は、目標に対し売上119%増・ROAS120%と、それぞれとても良い結果となりました。

D.Tableさんのサポートのおかげもあり、BQMLを活用した精度の高いモデル作成ができたため、しっかり広告効果をあげることができたのだと思います。これまで自身で進めていたMLの活用施策では、その精度が良くなく、精度を良くする考え方がわかりませんでした。説明変数の中から貢献度が低いものを削除する、精度が悪い場合はデータを間引くといった、自分では辿り着けなかった考え方をD.Tableさんにご教示いただけた点が良かったですし、実際に精度も上げることができました。「自社でできること」ではあっても、それを「良くする」という点では、自社のみでのML活用推進はなかなか難しいと感じました。もちろん目的変数がLTVですので、短期的ではなく長期的にも検証は行っている最中になります。また、1st Iterationで得た知見を活用して、自身でも他ブランドでMLモデルを作成し活用することも行えました。そちらの配信でも高い広告効果を得ることができ、インハウスという観点で、私自身にも知見が備わったという実感がありました。

その後会社が統合し、(同じ業務に携わる)メンバーが増え、1st Iterationを基に社内でレクチャーを行ったが、D.Table様とハンズオンで実際に実際に分析・モデル構築・広告配信の流れを理解するのがデータ活用促進の近道と判断し、2nd Iterationの実施検討をしていくことにしました。

服部:D.Tableにとっても初めての取り組みでしたので、最初はTSI様からの信頼を得ようと必死でしたが、Step4のハンズオンに入ったあたりで、段々と信頼関係を築けるようになってきた感触がありました。プロジェクト実施前に把握していた課題よりも、本質的なお客様のニーズはプロジェクト開始後に会話を深める中でわかるものだなと強く感じました。それらを踏まえても、1st Iterationが竹山さんのご満足いただけるものになってよかったと思います。

※2nd Iterationの取り組みについては、次回記事でご紹介しています。ぜひご覧ください。
※インタビュー・撮影は、感染症対策を施した上で行いました。

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